フォークナー「響きと怒り」を読むために

いわずとしれたウイリアム・フォークナーの大傑作「響きと怒り」(The Sound And The Fury)がこんなにも複雑な構成だったとは知らなかった。電車の中で流し読むつもりで読み始めたが、話の筋が全然つかめない。第一章を一応読み終わった後、独力では無理だと悟り、Wikipediaの"The Sound and the Fury"の項を印刷し、それを参照しながら、なんとか全4章を読んだ。そこで、「響きと怒り」を読むときのガイドとして次のことを書いておく。

  • 最初から読むより、ストーリーの時間順に読むほうが理解しやすい。

この作品は四章から構成されている。一つの章で以下に示した一日の出来事を記述している。また各章は()の中の人物の視点で書かれている。

第1章 1928年4月7日 (ベンジャミン)
第2章 1910年6月2日 (クウェンティン)
第3章 1928年4月6日 (ジェイソン)
第4章 1928年4月8日 (ディルジー

難解なのは最初の二つの章だ。意識の流れを重視し主体的時間の流れを追った記述方法で、時間がしばしばフラッシュバックするためだ。時間順に読む方がいい、とたった今書いたが、それだと、2314の順序で読むことになって、難解な第二章を一番先に読まなければいけないので、時間的に近接している(一日違い)1、3、4章を日付順に読んだ後で、第二章を最後に読んでもいい。つまり、3142の順である。それから岩波文庫版には、フォークナー自身が後年書いた「コンプソン一族」という付録が最後についている。主要人物についてのスケッチである。話の筋がある程度判ってしまうという弊害はあるが、本章を読む前にこの「コンプソン一族」を先に読むと、第2章を最初に読んでもついていけるだろう。まとめると、
「付録、2、3、1、4」(または付録、3、1、4、2)
の順で読むのが、ストーリー展開をいちばん理解しやすい。訳者の解説は、読んで損にはならないが、得をするような内容でもないので、読まないほうが時間の節約。けっして解説がつまらないと言っているのではない。ストーリー理解のためにはたいした役には立たないといっているだけである。それから、事細かい時間の流れの対照表もついているが、これは断じて一般の読者には必要ない。フォークナー研究者ならいざ知らず、普通の読者は一回通読したら終わりである。いちいち、一行一行について時間的つじつまを合わせながら読む必要はない。電車の中とかで、なるべくさっと読むべし。そのためには上に書いたような順番で読むべし。