Encyclopedia Britannica 2008 Ultimate

両親の家にはブリタニカ百科事典全#巻があるが、本棚から取り出して読んでいるところを見たことはない。親の世代にとって百科事典とは、読んで知識を身に付けるというよりは、本棚に飾っておくものなのだ。百科事典や図鑑の訪問販売がさかんだった頃の話だ。テレビ、洗濯機、冷蔵庫、車を買った家庭は、つぎはピアノ(ピアノが無理ならオルガン)や百科事典などの教養グッズを揃えることを目標にしたのだと思う。

ぼくの家ではピアノは買えなかったが、代わりにオルガンを買った。そしてブリタニカ百科事典の飾られている家で育ったからか、百科事典といえばブリタニカというのがぼくの固定観念である。幾らくらいしたのだろう。今の感覚だと10万円くらいはしたと思う。一括は無理だっただろうから月賦で購入したと思う。そこまでして買わなければいけない物だったのかと、今なら両親も冷静に考えられるだろうが、百科事典が家にあることが価値をもったそういう時代だった。

時代は変わった。ブリタニカ百科事典がDVD一枚に収められて、たったの35ドル。製品はUltimateとDeluxeの2種類があって、二つの違いは、Deluxeが大人用のライブラリーしかないのに対して、Ultimateは小学生、中学生用のライブラリーが付いている分高い。それでも35ドルだ。ぼくは2008年度版のUltimateを買ったが、2007年度版ならもっと安く買える。

競合商品にはEncarta(マイクロソフト)があるが、Encartaは大学生にターゲットを絞っているようだ。今でもあるのかどうか知らないが、World Bookという製品もあった。iBookにこのWorld Bookが付属していたからだ。

BritannicaのDVDをMacBookとVostro(Dellのラップトップ)両方にインストールした。音声、画像ファイルもインストールすると、3.8Gほどのディスクスペースが必要。さっそく、遊んでみた。まず、小学生用のライブラリーをのぞいた。Aの項目を見ると、Samuel AdamsやJohn Adamsといったアメリカ建国期の人たちが出てくるのはさもありなんだが、Jane Addams(福祉事業家)やAnsel Adams (写真家) が出てくるのは、6歳から10歳を対象にしたライブラリーにしては難易度が高すぎやしないかと思うが、別の見方をすれば、小学生用だからといって侮ってはいけないということ。acquired immunodeficiencyという明らかに小学生には難し過ぎる単語が見出し項目にあるので、なんのことかとクリックしたら、これがAIDSの正式名称だったとは知らなかった。acneやadolescenceという青春っぽい語があるかと思えば、agingについてもしっかり学ばせようという教育的配慮は見事。なぜ、この語を入れたんだろうという視点でエントリー項目を見ると楽しい。

30分ほど遊んでみた限りで、良い点悪い点を列挙すると、

  • マック(MacBook)の方では、フリーズしやすい。それから、最初のうちは検索の枠にアルファベットを入力できなかった。英語モードにしても日本語が検索枠に入力されてしまった。これは致命的欠陥。なんかの拍子に正常に戻ったが、こんなことは起きてはいけない。ウィンドウズのボストロの方には日本語入力ソフトを入れてないのでこの点については何とも言えない。
  • Brainstormerという機能があり、エントリーの項目と関連する項目をマインドマップのように一覧にして示してくれる。実際の仕事に役立つとは思えないが、とりあえず楽しい。
  • インターフェイスがごちゃごちゃしていて、見た目が悪い。もっとシンプルな画面にしてほしい。
  • 目障りなのが、すべての項目の最後にMLAとAPAスタイルで引用記法がのっていること。せめてこれらを見せなくする機能を付けてほしい。

悪い点ばかり書いたが、最初に書いたように、以前は10万円以上もしたものが5000円以下で買えてスペースをとらないという利便性が、上に書いたような欠点を凌駕する。未知の固有名詞や概念語を調べるとき、グーグルで検索してもいいが、ついあっちこっち見てしまって時間を浪費しがちだが、このブリタニカがコンピューターに入っていれば、いつでも不明な点を確認できる。それから、検索機能は用例チェックとしても使える。使いたい単語、フレーズで検索したら、その語が含まれる項目が一覧で出てくるから、どういう文脈・場面で使えるのかが分かる。こういうこともグーグルでできるが、誰が書いたのか分からない英語は信頼がおけない。でも、ブリタニカの英語なら信頼してもいい。

最後に、今日のところはなんとも判断がつかなかったが、期待してもいい機能を二つ。

  • Workspaceというソフトウェアがついているが、人によっては有用だと思う。これはメモ書きやブックマークができる機能で、もしこのブリタニカDVDを主資料としてリサーチするなら、この機能は役立つと思う。
  • ウェブリンクが付いていて、ブリタニカから関連するサイトへ飛ぶことができる。

少し使い慣れた時点で、また感想を書いてみたい。