ポジティブ・シンキングはむしろ害になる

The Economistの短い記事("Words of Wisdom")だが、最初の段落にノーマン・ヴェンセント・ピールのThe Power of Positive Thinking(邦訳:「積極的考え方の力―ポジティブ思考が人生を変える」)の文字が飛び込んできたのでつられて読んだ。ちょうど今その本を読んでいるからだ。記事はカナダの大学の研究の紹介で、その研究によると、ポジティブ・シンキングはかえって害になる場合もあり、たとえば、自分に自信のない人にプラス思考の発想をさせても、現実の自分に対して持つ認識と、言葉として受け入れる理想的な自分との差がありすぎると、かえって自己嫌悪に陥ると指摘している。

それは確かにそうだ。だが、少なくともぼくの知っているポジティブ・シンキングの本が言っていることは、ポジティブ・シンキングを習慣化すれば自分のスキルを高めるのに役立つということで、すぐさま夢が実現したり、自分が変われるとは言っていない。むしろ、記事が指摘するような自己嫌悪を克服するためこそ、ポジティブ・シンキングを実践するとよい。しかしそれは長期間を要するプロジェクトだ。短期間(たぶん一日)でなされた実験で、ポジティブ・シンキングの効果が計測できるわけがない。The Economistにしてはめずらしく掘り下げ方が雑で、こういう記事を読んで文句を書きたくなる気持ちにさせることが逆にこの雑誌のレベルの高さを証明していると言えるかも。