egbridge Universal 2

マック対応の日本語変換ソフトは、現在ではたった二つしかない。ATOKegbridgeだ。おっと、もう一つ、アップルの「ことえり」も。漢字Talk9の頃は、「刀」という変換ソフトを使っていたような記憶がある。ほかにもあと二つくらいあったように思うが、いつの間にかなくなっている。さて、インテルマック用の"egbridge Universal 2"を使い始めた。これまでもegbridgeを使っていたので、バージョンアップ価格の五千円で買った。なぜシェアが圧倒的に高いATOKではなくて、egbridgeを使うのかと言われれば、理由はある。まず、ぼくの消費者としての性癖で、何を買うにしてもシェア一位の商品やブランドは避けたがる傾向があって、品質が著しく劣っているのでない限り、シェアの小さい会社を応援してあげたいという気持ちがある。Atokegbridgeを比べると、変換精度に大差はないように思う。それから、価格が全然違う。ATOKは一万円(辞書つきだと一万三千円)するが、egbridgeは辞書付きでも九千円なので、かなり安い。最後に、付属する辞書(国語、英和、和英)を比べれれば、egbridgeに付属する辞書のほうがよさそうな気がしたからだ。Atokに付属するのは、「明鏡国語辞典」「ジーニアス英和・和英」だが、ジーニアスについてはどんな辞書なのか知識がないけれど、「明鏡」は個人的に好きでない。いっぽう、egbridgeには「大辞林」「ウィズダム英和・和英」が付いてくる。「大辞林」は収録語数が10万を超えるし、「ウィズダム」はコーパスを使って編集された初の英和辞典というふれこみに魅かれた。それから、egbridgeに付いてくる辞書は、電子辞典ビューアというソフトで閲覧するが、ロゴヴィスタEPWING形式の他の辞書も取り込むことができるのも便利だ。

なお、電子辞書なら内容一発で決めればいいが、紙の辞書を選ぶときはそうはいかない。日本語にしろ、英語にしろ、内容以外にも、本としての質を考慮するからだ。組み版(探しやすさ、見やすさ)、製本(丈夫さ、開いたままで置けるか)、紙の質(めくりやすさ)、印刷の質(使用色やインクの濃さ)などは、辞書の使い勝手を決定するので、書店で実物を見てみなければ買えない。

話が脱線したが、元に戻してegbridge Universal 2のことだが、日本語変換の精度については、もう十分満足なレベルにあるのでここでいちいち書かない。ちょっと書いておきたいのは、付属の「ウィズダム英和」のことだ。「ウィズダム」はコーパスをもとにして編纂された。コーパスというのは、雑誌、本、新聞、テレビなどで使われた英語をデータベース化したもののことだ。「ウィズダム」に採用された例文はすべてこのコーパスから選ばれたものだ。通常の辞書に使われる例文というのは、辞書編集者がつくりあげたもので、最悪の場合は誤った語法が示されていることがあるし、控えめにいっても、実際どう使えばいいのかという観点からすると役に立たない場合が多い。

実は、ぼくが英語を書くときもっぱら頼りにしている辞書は、Collins CoBuildというイギリスのコーパス辞書で、実際の用例がセンテンスまるごと載っているので、どういう場面でどういうふうに使うのかがよく分かり(たとえば、ある動詞をつかいたいとき、この動詞に抽象的名詞を主語として立ててもいいか。ある名詞のあとに続ける前置詞はin かonか、など)、使い慣れていない語を使いたいときはCoBuildで使い方を確認する。ついでながら、単語の意味を知りたいときは、何でもいい。三省堂のコンサイス英和でも研究社のリーダーズでも、ペーパーバックのAmerican Heritage でも、その単語が載っていさえすればよい。でも、書くときは、とんちんかんな文を書かないように注意をしている。そのために必要なのが、コーパスをもとに編集されたCoBuildだ。これが一冊あれば、ある語について、どういうふうに使えばいいのかがだいたい見当がつく。

そういうわけで、日本初のコーパスと銘打った「ウィズダム」はどうなんだろうとすこし使ってみた。幾つか単語を検索して見てみたけど、一般的辞書と見た目は変わらない。品詞別にこまかく語義をわけて説明していて、語法や類義語との違いなどを囲みで説明している。そして例文だが、高校で習う程度の単語なら例文がついているが、それを超える単語になると語義だけになっている。たとえばadomonish, resilient, constituencyには例文がない。コーパスとは言いながら、やはり利用者は高校生、大学生あたりをターゲットに定めているようで、学習辞書という範疇を出ていない印象だ。古いegbridgeに付いてきた「新英和中辞典」(研究社)と比べると、やや実例が多い程度か。いやそうとも言えないか。

注目していた、コーパスから引っ張ってきた例文の内容だが、平易な内容が多すぎる。編集方針だと思われるが、普段の生活レベルで読んだり話したりするような内容が例文として採用されている。したがって、研究論文で使うような、概念的、抽象的な言い回しは見当たらない。実際、自分で書く英語の参考になるかといえば、あんまりならない。それに、自分のレベルでは例文に日本語訳はいらない。その分、例文を増やしてくれたほうが嬉しい。学習用の辞書にそういうことを言うのはぼくのわがままで、自分にはやや物足りない辞書ではあるが、学習用英語辞書として見れば、いろいろな意見が出てくるだろう。ぼくは英語を読んだり書いたりすることはできるが、英語教育者ではないので、ウィズダムが他辞書と比べて英語の学習にどう役立つのかの意見は言えないが、少なくとも、辞書の作り方としては進むべき方向を向いているということは言える。どんどん改訂を重ねて、学習用とは別に、実用向けのコーパス辞書も作ってもらいたい。