痩せたければ運動するな

ダイエット法にはいろいろあるが、まともなものから嘘八百のものまですべてに共通している考えは、カロリー摂取量とカロリー消費量のバランスで、カロリー消費量を増やせば痩せられるという理論だ。カロリー消費量を増やすためには運動しかない。これが科学的常識である。ところが、それは間違っていると主張する雑誌記事を見つけた。間違っていると言うだけでなく、運動すると反対に太るとまで言っている。その根拠は、わりあい単純で、みなさんにも思い当たる節があると思うが、運動すると腹が減ってしまい、たったいま消費したカロリー以上のものを食べてしまうからだ。

たしかにそのとおりだ。たとえば、ぼくの場合、週に2回くらい、近所の湖の周りをランニングするが、走る時間は30分以上60分未満、翌日に筋肉痛が出ない程度で止めている。これで消費するカロリーは300から500ぐらいだ。これ程度のカロリーは、パスタ一食分ですぐに取り返せてしまう。それに走った後の食事は美味しい。ついつい余計に食べてしまう。

このNew Yorkerの記事によると、科学者たちのあいだでは、運動すれば痩せるというのは定説とはなっておらず、世界中で運動量と肥満に関する研究はたくさんあるが、両者の間にはっきりした因果関係は見いだせないらしい。

面白いのは、アメリカでの話に限定すると、1950年代までは痩せたければ運動しないほうがいいというのが専門家の共通理解だったが、1960年代に入ると、その逆、つまり現在のわたしたちの常識であるところの、運動すれば痩せられるという説が広まり始めて、それが現在にまで続いている。肥満が問題化したのはちょうどこの新説が幅を利かせ始めた頃で、反文明論的な思想とあい絡まって、エクササイズ信仰が一気に広まった、とこの記事は論じている。そして、このエクササイズ信仰を広めたグルみたいな人物がいたそうで、一応紹介しておくと、Jean Mayerというハーバードの栄養学者がその人だ。

昔の医者は、運動をすると腹が減ってたくさん食べてしまうので、なるべくじっとしていなさいと肥満患者を指導していたそうだ。今とまったく逆である。今だと、一日中ゲームをしてたら太ってしまうから、すこしは運動しなさいと言うのが常識だ。

運動はダイエットに逆効果なら、明日からジム通いをやめたほうがいいのか。そうはいかないだろう。体重を減らすのだけが目的なら、この記事を信じて運動を一切やめるというのもいいかもしれないが、運動の目的は他にもある。筋力を維持したり、心肺機能の向上や、汗をかくことで新陳代謝をよくするとか、精神的にリラックスするというのもあるだろう。だから、トータルで考えれば、運動はやはり必要だと思うし、ぼくはこれまでどおり外を走るけど、ぼく自身、運動で体重を落とせると信じていた部分はあった一方で、運動すると食欲が増して逆効果ではという疑念もあった。だから、これからは運動で体重を落とせるという幻想を持たなくていいし、もし運動で体重が減ったらそれはそれでラッキーだ、という割り切り方ができる。

では、痩せるためには何が有効なのか。この記事は、炭水化物の摂取を減らせば確実に痩せられると言っている。これも今では科学的常識になっていることだが、運動と違って、こちらのほうは本当に効果があるということだ。