ブランドン・インジの憂鬱

メジャーのキャンプが始まった。タイガースで一番注目を集めているのは、ブランドン・インジの処遇だ。インジは昨年まで三塁のレギュラーだったが、シーズン終了後のトレードで、タイガースはミゲル・カブレラという三塁を守る強打者を獲得した。インジの打率は2割5分行くか行かないかというレベルだから、3割を確実に打てるカブレラにはかなわない。このトレード直後に、インジは球団にトレードを希望し、球団もトレードを画策したようだが、結局話がまとまらずキャンプに突入した。トレードの交渉は今後も続けていくだろうが、現場としてはインジを来季どう使うかを決めなければいけない。

じつはインジは、現在の正捕手ロドリゲスがタイガースに来るまでは捕手をやっていた。調べれば、インジの経歴は普通ではない。大学では内野手で、プロに入ってからいやいや捕手を始めたらしい。その理由はレギュラーをとるためという至極まともで単純なものだった。ロドリゲスが入った2004年は内外野、捕手を兼務し、2005年から三塁に専念した。だから、来シーズンはふたたび捕手としてプレーすることを受け入れた。ただし控え捕手として。だが、控え捕手というポジションもインジにとって約束されたポジションではない。タイガースにはヴァンス・ウィルソンという本来の控え捕手がいるのだが、怪我で昨年は(たしか)全く試合に出なかった。ウィルソンの怪我は回復に向かっているが、4月の開幕には間に合わない。予想では5月中ということだ。ウィルソンが戻ってきたら、リーランド監督は、控え捕手としてインジとウィルソンのどちらをとるのか決断しなければいけない。フロントはウィルソンの復帰をめどにインジのトレードをまとめたいと考えているだろう。でも、もしトレードがまとまらず、ウィルソンを控え捕手に使うとなれば、インジは内外野のユーティリティとしてつかうか、ロースターから外すしか方法がなくなる。

ということで、インジは今苦しい立場にいる。昨日か今日の新聞で読んだAPの記事の見出しは、「チームの癌にはなりたくない」。そのとおりだ。インジは大人の態度を貫こうとしているのだ。監督やチームメイトも気を使うだろう。トレード希望だということはみんな知っているわけだし、インジにあんまり気を使うと、新しくサードを守るカブレラの心理を難しくしてしまう。

当事者はつらいだろうが、実力だけで生きている人たちをぼくはうらやましくも思う。自分の実力だけがものを言う世界では、自己保身、現状追認既得権益防守、変革拒否のための言葉は役に立たないんだもん。試合に出たかったら、年俸を沢山もらいたければ、技術を身に付ける、結果を出す、これしかないんだもん。ひるがえって、、、、という話なら、ぼくはたくさんエピソードを持っているが、そういうことに気をとられているうちはまだまだ実力がないんだろう。インジはどんな気持ちでキャチャーマスクをかぶって、投手の投げる球を受けているんだろう。