恋しいものはといえば

アメリカを離れて何が寂しいかというと、野球である。実際プレーするのではなくて、テレビで観る野球である。日本にだって野球中継はあるが、とても見ていられない。実況中継がひどいからだ。ああいうことを喋っていて、自己疑問がわいてこないのだろうか。例えば、局のアナウンサーは「先頭バッターの**、ここはどんな形でもいいから塁に出たいところですねー」と解説者にふるわけだが、一体全体、塁に出たくないと思って打席に立つ選手がいるだろうか。そして先頭打者が塁に出れば得点の可能性が高いのは野球の常識である。なんで、こんなわかりきったことを言わなければいけなのだろうか? それに解説者もかなりひどい。遊撃手が高いバウンドのゴロをちょっともたつきながらもアウトにすると、「**はもっと練習せんといかんねー」。せめて、なぜ球さばきがもたついたのかを技術的に解説してくれれば、聞いてる方もためになるが、ダメ出し一発でおわり。それとか、ある若手選手の顔つきについて、「いい目つきをしてるね。ああいう目つきを選手全員がすれば強いチームになりますよ。」やれやれ。目つきでチームが強くなるか。二つとも、もうすぐ北京に行って指揮をとる人の言葉である。現場指揮と解説は全く異なる能力が要求されるのだから、指揮官として有能でも、解説者としてはふさわしくないという好例である。でも、この人に罪はないわな。この人に解説を依頼する局のプロデューサー(か、もっと上層部)の判断が問題にされなければいけない。

一般的に、日本の解説者は選手として成功した人ばかりだからか、現役選手をこき下ろすことが解説だと信じているような節がある。投手の軸足にためがないとか、腰の開きが早いとか、まるでコーチ感覚でマイクに向かって喋っている。あるいは、投手の配球を読んだり、バッターのねらい球を示唆したりと、まるで当事者感覚でマイクに向かって喋っている。そんなことよりも試合そのものを面白くしてくれるようなことをしゃべってくれ。視聴率がとれないのは、野球人気が下がったからではない。野球のレベルは高いし、とうぜん目を見張るべきプレーも随所に表れる。でも、あの中継がすべてを台無しにしている。アメリカのテレビ中継は、野球を見ていても楽しいし、解説を聞いていても楽しい。日本のテレビ局はスポーツ担当アナウンサーを、ESPNにでも研修に行かせて、アメリカの実況中継を勉強してほしい。できれば解説者も一緒に連れて行って勉強させてほしいが、名球会入りしたような人に研修を受けてこいとはさすがに言えないだろうね。