高校野球3
ハラハラドキドキが高校野球を観る楽しみかもしれないが、智辯和歌山の試合はちょっと違う。スペクタクルな野球と表現しておこう。試合序盤は相手投手の球を打ちあぐねて点が入らない。そうこうしているうちに先取点をとられて相手に主導権を握られる。しかし、打順が二巡目、遅くても三巡目になると、相手投手の球筋に目が慣れて、ジャストミートの打球がどんどん外野へ飛んでいき、いとも簡単に逆転する。打線は、どの打者も鋭い振りでセンター返しのバッティングを心がけている。先ほど書いたが、相手投手への対応能力がたいへん高い。試合を観ていて、序盤リードされていても、まったく焦らなくてもよい。4番の坂口はプロ注目の打者らしいが、打ったときの金属バットの音がほかの打者とはあきらかにちがう。しかも、スター役者よろしく、内野手の間をかろうじて抜けていったり、当たり損ねのフライがたまたま誰もいないところに落ちるといったような、せこいヒットは打たない。打った瞬間ヒットか凡打か分かる。
エースは岡田という左腕だが、特別すごい球を投げるわけではない。ストレートが130キロ台でスペック的にはいわゆる甲子園レベルで、制球が乱れてよく四球を与えるのが難であるが、ここぞというときにはきっちり抑えるので、大量点を与えない。打者内角へストレートをどんどん投げ込むのが特徴で、ときどき高めに浮くのでひやっとすることもあるが、ここまでの三戦で、まだその内角ストレートを打たれていない。そして岡田投手の顔つきには、他の強豪校のエースのように「オレ、プロ行きたいです」のような迫力というか、いかつさがまったくない。でもって、さほど速くないストレートを内角にどんどん投げ込むものだから、ついつい見ていて力が入ってしまう。もし智弁和歌山が負けるとすれば、岡田が自信を持って投げ込んだ内角ストレートを連打されるかホームランにされるときだろう、と読んでいる。