日本は感染症対策の途上国だという話

インフルエンザでなぜここまで過剰に騒ぐのか、度を超えているとは思っているものの、なぜこういう過剰対応に走るのかという説明は、自分としてはできなかった。国民性だからと言うだけでは説明したことにはならないし、行政とテレビ・新聞が騒ぎを大きくしていると言ったところで、それは結果であって、なぜそういう決断・行動に走ったのかについては何も説明できていない。空港での検疫は効果がないというくらいは庶民でも分かると思うが、なぜ当局がそれを本気でやったのかを突き止めなければ意味がない。これらの疑問に答えるには専門家の意見に耳を傾ける必要がある。

「ダイヤモンド」誌オンラインのこのインタビュー(木村もりよ)を読んで、そういうことだったのかと納得した。専門家の立場から、今回の厚生労働省の対応を批判している。そうだったのか、日本は公衆衛生では途上国なみのレベルなのか。「公衆衛生学は医学における国防」なのか。この発想は素人には絶対出てこない。それから、日本は結核罹患率が欧米先進国の10倍で、都市部に限れば新規患者数はネパールなみだという話や、HIV ・AIDSの罹患率が上昇しているのは先進国では日本だけという話も読める。

ぼくとしては、これを読んでかなりすっきりした。医学で先進国なのだから感染予防の面でも先進国のはずだという前提が間違っていると言われれば、この慌てふためきようは腑に落ちる。この専門家の話していることに対して、他の専門家からの異論が出てくることはあるだろう。もしそうなれば大きな前進である。病気のことは専門家でなければ分からないので、専門家が議論を戦わせて、コンセンサスを導きだして、国民を教育してもらえればうれしいし、政府は必要な予算をつければよろしい。

昨日、地下鉄の御堂筋線に乗ったら、乗客の半分がマスクをつけていた。おおざっぱに半分と言っているのではなく、視界の届く範囲で数えると本当にちょうど半分の乗客がマスクをつけていた。先週は大阪市内の中華料理店に行ったが、マスクをつけたウェイトレスが三人入り口に並んで「いらっしゃいませ」と出迎えられた。マスクの効果について、上の専門家は述べていないが、ぜひとも意見が聞きたいものである。この専門家が言うように、日本が途上国だということと(もしそうだとして)、他国ではありえないマスク大流行りの映像を組み合わせれば、例えばだが、公衆衛生学のレベルの高い国の大学医学部の授業で教授が、マスクをつけて通勤する日本人のスライドをプロジェクターに映して、「日本のような公衆衛生途上国では、国民に対して正しい知識が伝えられないために、弱毒性インフルエンザであるにもかかわらず、国民は必要以上の不安をもってしまい、健康な人までがマスクをつけるというパニック状態に陥っています。公衆衛生の正しい知識を国民に伝えることの大切さを示す一例であります。」と講義に使えるかもしれない。