エリーゼのために

いまでもまだ持っているかどうか探してみないと分からないが、22年前に「エリーゼのために」という詩集を買った。忌野清志郎の詩集だ。曲につけた歌詞とオリジナル詩が印刷されていたという記憶がある。もちろんRCサクセションは知っていた。でも熱心なファンではなかった。それでも忌野清志郎の詩集を買ったということは、彼の言葉の何かに惹き付けられたからだろう。その本にどんな詩があったのかは思い出せない。でも、当時の自分を考えると、何度も反芻して読んだに違いない。

そういうことを思い出しながら、YouTubeRCサクセションを検索したら、デビュー当時の映像から最近のまでずいぶんたくさん見ることができた。2003年に、佐野元春と「トランジスタ・ラジオ」を共演していることには驚いた。性格的にとてもあいそうにない二人だからだ。でも音楽的にはすごく近いということを「トランジスタ・ラジオ」の共演を見て思った。1980年代前半のロックサウンドだ。佐野が歌っても違和感がない。デビューは忌野の方がずっと早いが、二人とも1980年がキャリアの転機となった。佐野はこの年にアルバムデビューを果たして、忌野はこの年に「トランジスタ・ラジオ」と「雨上がりの夜空に」という二曲のヒット・シングルを発表した。「雨上がりの夜空」は、佐野がアルバム「Someday」で完成させた初期佐野サウンドを彷彿させる。佐野がこれを歌ったらぴったりはまること間違いない。でも佐野は「おいら」とは歌わないけど。

もう一つ印象に残ったYouTubeの映像は、テレビ番組に出演したとき、ピート・シーガーの"Where Have All the Flowers Gone"を弾き語りで歌いながら登場したものだ。キーの高い清志郎がシーガーをまねて低音で歌っているが、シーガーの声にすごく似ている。それよりぼくが唸ったのは、とんねるずが司会をする番組で、スタジオには若い女性のスタジオ見学者が大勢いるが、彼女らの誰一人として知っている人はいないであろうピート・シーガーをぼくとつと歌うひねくれセンス。

そうそう、 いま思い出した。「雨上がりの夜空に」に「ジンライムのような月」というフレーズがあり、詩集「エリーゼのために」にはこの歌詞が印刷されていた。そして「ジンライムのような月」とはいったい何を表現しているのかと、22年前の自分は考え込んだことを今思い出した。60歳を超えてもまだ現役で歌っているロックシンガーはたくさんいる時代に、忌野清志郎はずいぶん早く死んでしまった。