The Last King of Scotland

これは面白い映画だった。1970年代のウガンダ共和国大統領のアミン大統領を描いたストーリーなのだが、ではなぜタイトルにスコットランドとあるのかといえば、スコットランドの若い医師ニコラスがウガンダの村で働いていて、ふとした偶然でアミンのけがの手当てをしたことからえらく気に入られて、とうとうナンバーワンの側近まで昇りつめた(というよりは昇らされた)という、脚色はかなり入っていると思うが、いちおう実話に基づいているからだと思っていたが、そうではなかった。映画を観たあとでちょっと調べて分かったのだが、ウガンダは元々イギリス統治下にあり、1962年に独立を果たしたものの、それ以後もイギリスの内政干渉が激しく、アミンはそれをきらっていた。そこで、自分はスコットランドの最後のキングだと主張して、かつてのような被支配国からの脱却をアピールしたことがこの映画のタイトルになっている。だからたまたま出会ったスコットランド人の青年医師の存在はウガンダとイギリス、スコットランドイングランドとの歴史的関係を象徴していると言えよう。アミンが実権を握ったのは1971年。軍出身のアミンは独裁政治を敷き、30万人を虐殺したとされている。

映画は、理想主義っぽいがお調子者のスコットランドの青年医師ニコラスがウガンダに移り住むところから始まる。村に着くや否やイギリス人の人妻と不倫を始めるが、医者としてはまあまあ真面目に働いていた。ある日村にアミン大統領が演説にやって来て、その帰りアミンの乗った車が水牛とぶつかってアミンが手首を痛める。それを手当てしたのがニコラスだった(といってもただの打撲で、包帯を巻いただけに見えたが)。最初はイギリス人だと思ってみたいだが、スコットランドの文字の入ったシャツを着ていたニコラスをたいそう気に入ったアミンは(ウガンダと同じく、スコットランドもイギリスの圧政を受けてきたというシンパシーからだろう)、自分の着ているバッジのたくさん着いた軍服とそのシャツとの交換を申し出る。次の日、首都カンパラからアミンの使いが来て晩餐会に招待される。そこで、アミンの専属医師になってくれと懇願される。そこからはまたたく間に、専属医師というだけでなくアミンの側近中の側近へと昇っていくニコラスが描かれる。大統領邸の敷地内にアパートをあてがわれ、コンバーティブルのメルセデスを贈られ、女まで用意してもらったとなれば、これまで近くで仕えていた側近たちの気持ちは穏やかでない。ニコラスの存在はウガンダ政府内部だけでなく、外交界にも不穏な空気を運んだ。利権に群がっていた西洋諸国の外交官やビジネスマンたちがニコラスに牽制をかける。

ニコラスが幸運だったのはここまでで、ここからは凋落の一途を辿る。アミンとニコラスがメルセデスでドライブをしているとき、先頭を走っていた大統領用専用車が襲撃される。これを機にアミンは側近不信に陥る。能天気なニコラスも、さすがに状況がまずくなってきたことを理解し、スコットランドに帰りたいとアミンに言うが、了承してくれない。きわめつけに、ウガンダのパスポートを発行されてしまう。この頃からニコラスはアミンの妻(ここは一夫多妻制で、もう寵愛を受けていない妻)と関係を持つようになるが、この不倫はかなり白けてしまう。だって、普通、絶対的権力を持ったボスの妻に手を出すヤツがいるか? それはさておき、話はいよいよ血生ぐさを増してくる。その妻はまもなく残虐な殺され方をする。ニコラスはついに心を決めてアミンの暗殺をたくらむ。折しも、PLOがハイジャック事件を起こす。アミンはハイジャック機をウガンダ国際空港に着陸させる許可を与える。それに対抗して、イスラエル軍ウガンダ国際空港を包囲する。これは史実で、ウガンダは当時、反英国、親PLOで、ソビエトリビアから援助を受けていた。よって、イスラエルはアミンの敵である。アミンはニコラスと空港へ行く。

最後の空港でのシーンは、息をもつかせぬ展開で一気にラストまで観客を引っ張っていく。アミンを毒殺しようとしたニコラスだが、部下が念のためにその薬を別の者に試飲させたのを見て、ニコラスはその薬を吐き出させる。それがアミンに伝わり、妻と姦通したことも含めて、むごい拷問を受ける。拷問を実行した部下たちが楽しく一杯やっている間に、ウガンダ人の医師がニコラスを応急手当てし、イスラエル政府とPLOとで決着がつき、解放された人質を乗せてまもなく離陸する飛行機に乗り込ませて、無事脱出に成功する。ニコラスを助けた医師は射殺される。アミンは飛び立った飛行機を無表情に眺める。

ぼくのお気に入りのシーンは、大統領邸で行われた宴会でアングロ・サクソン系の音楽が演奏されるところと、夜のパーティでウガンダ人の歌手がジャニス・ジョプリンの"Bobby McGee"を歌うところ。それからお気に入りではないが謎だったのは、ニコラスがアミンの部屋に呼ばれたとき、ヴィデオに"Deep Throat"が流れていたこと。

アフリカの新興独立国の独裁者とくれば、いろいろなことが背景に浮かんでくる。米ソの冷戦、第三世界の独裁者に近づいて利権の汁を吸う先進国の連中、開発援助の名目でいろいろ動き回る連中、さらには帝国主義時代の禍根。そういう歴史的、国際関係論的視点でまじめに考えてしまうと、この映画には失望するが、映画だと思えば面白い。「ラスト・キング・オブ・スコットランド」は独裁者の光と影を若い白人の視点から観察していて、それは成功していると思うし、見ていて飽きさせない作り方をしているので、ウガンダのことを知らなくても十分楽しめる映画だと思う。

初出エキサイト 4/15/2007 Sun
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