「カビリアの夜」

これはフェリーニの1957年の映画。英語タイトルは"Nights of Cabiria"。ローマに住む娼婦のカビリアは、男運がない。映画は、信じていた男にハンドバッグを奪われ、川に突き落とされるところから始まる。すると、次にひょんなことで有名な俳優と知り合いになって、その俳優の家にまで連れていかれ、あともう少しというところで本命の女が現れておじゃん。教会に行ってキリスト様にお願いもするのだが、はたして御利益は? つぎは、芝居小屋に迷い込んで、催眠術師に催眠をかけられてしまい、オスカーという男と結婚すると言われた。催眠がとけて、小屋を出ると、本当にオスカーという男に出会い、求婚される。カビリアはすっかり有頂天になり、住み家を売り払い、支度金を持ってオスカーのもとへ行く。ところが、オスカーは金目当てでカビリアに近づいたのだった。湖のほとりで、あやうく突き落とされそうになったとき、そのことを知るカリビア。放心状態で森から抜け出し、車道に出ると、十人ぐらいの楽団が演奏しながら陽気に道をくねり歩いている。そこで映画は終わる。

フェリーニ専門家はこの世にたくさんいるので、いろいろ評論はなされていると思うけど、ぼくの感想としては、これかなり見事な作品だと思った。上のストーリーだけ読めば悲劇映画、あるいは社会派作品かと思うかもしれないが、スラップスティックみたいな要素もあるし(主人公の娼婦は、髪形が似ているせいもあるが、"I Love Lucy"という50年代のアメリカのテレビコメディを彷彿させる。)、ミュージカルっぽいシーンもいくつか挿入されてるし、コカコーラがどうのこうのと言いあうシーンもあり、Essoのロゴも出てきて、1950年代のアメリカのポップ・カルチャー、経済力を垣間見ながら、教会での「マリア様!」とお祈りするシーンがあるかと思えば、ナイトクラブでのアフリカ人女性のセクシーダンスが出てきたり、魔術師も登場しながら、ストーリーはどんどん進んでいく。そういうわけだから、主人公の不幸な境遇に同情の念を禁じ得ないが、お涙頂戴にはならないところはフェリーニの巧みさと、娼婦を演じるジュリエッタ・マシーナの演技力のさせる技か。とにかくポップ。このひとことに尽きる。

1940年代のイタリア映画といえばネオリアリズムだが、1957年公開のこの「カビリアの夜」は、ネオリアリズムの骨格を用いながら、上に挙げたようなフレーバーを上手にミックスしている。1960年代になるとイタリア映画はスパゲティ・ウェスタン(マカロニ・ウェスタンと、日本では言う)を量産しだすわけで、イタリア映画界におけるアメリカ文化の融合というのは面白いテーマだと思う。とりあえず、フェリーニの映画をまとめて見てみよう。

初出エキサイト 4/6/2007 F http://takebay1.exblog.jp/5374187/