Who the $#%& Is Jackson Pollock?

トレーラー暮らしの初老の女性テリー・ホートンが、Thrift Shop(thriftは「倹約」の意味。中古の服や食器、電化製品、家具などを格安で売る店。品物は買い取りではなく、人々が寄付する。収益は慈善団体に贈られる。米国各地にある。ぼくも部屋着や食器類はここで買った。)で、へんてこな絵を見つけた。5ドルで買って家に持って帰ったが、やっぱり変な絵にしか見えないのでガレージセール(自分の家の庭で不用品を売ること。アメリカの庶民的な娯楽みたいなもの)で売りに出した。するとこの5ドルの絵を見た美術教師が、この絵はジャクソン・ポロックが書いた絵かも知れない、もしそうならすごい値打ちがあるとテリーに話す。ジャクソン・ポロックって誰なのよ? テリーはそう思いながら、この絵が本物かどうかを追求する決心をするところから"Who the $#%& Is Jackson Pollock?"は始まる。タイトルの"the" と "Is" の間の記号はキーの打ち間違いではない。これが正式なタイトルの、ドキュメンタリー映画である。ちょうど記号が4つなので、センテンス全体の意味を考えて、そうそう、例のあの単語が入ると思えばよろしい。なんだか英語の文法問題みたいだが。

さて、テリーは保管してあったthrift shop発行の購買証明書をたよりに、誰がこの絵を店に寄贈したのかを探ろうとするが店はすでに廃業、つぎに元メトロポリタン美術館の偉いさんが実際にこの絵を見て真贋を判断するが、贋作だと断定する。つぎは、科学的犯罪捜査の専門家(foresnics)に依頼して、キャンバスの裏に残っている指紋を手がかりに、コンピューター、カメラ、顕微鏡と科学技術のすべてを使って、この指紋がポロックのものかどうかを調べる。それで、テリーの絵に裏にあった指紋と、ポロックのアトリエから採集した指紋を採集して、別の指紋分析の専門家を呼んで両者が同一人物の指紋がどうか判断を仰いだところ、指紋分析家の判定は本物(偽物陣営からは当然反論がなされる。)。さらに、テリーの買った絵に使われた絵の具と、ポロックのアトリエの絵の具の成分分析をしたところ二つは一致することがわかった(偽物陣営からは当然反論がなされる。当時はこの種の絵の具は大量に販売されていたから、ポロックでなくてもこの成分の絵の具を購入することは可能だった、と)。贋作画家にもご登場いただき、真贋を判定してもらったが、偽物だと言う。

映画は、贋作だと主張する人たちと、本物だと主張する人たちに分かれて、にわかに面白くなる。単純化すれば、本物だと主張する人たちはアート・ビジネスには属さない人たちで、科学的な証拠を根拠とするのに対し、偽物と主張する人たちはアート・ビジネスに属する人たちで、経験から身に付けた鑑識眼を信頼する。両者のぶつかり合いは、正統が勝つか科学が勝つかというバトルの様相を帯びてくる。この映画自体は、本物グループ(科学派)のほうに肩入れしていて、その視点から美術界の定説を批判する。その一つが、絵画鑑定を決定するのに誰がその絵を所有していたかが大事にされるということだ。この慣習を利用するアート・ディーラーが映画の中盤から後半に出てきて、ジャック・ニコルソンにいったんこの絵を買ってもらって、ニコルソンの名前で売りに出せば信頼性がまして高く売れると、テリーに持ちかける(そういうシーンだったと思うが、聞き間違えたかもしれない。)。しかし、テリーはこういう類いの胡散臭さには耳を貸さない。

この映画の見事な点は、テリーのポロックが本物か偽物かを追跡する探偵ドラマ風の筋書き、いや、今流行りの科学的犯罪調査のテレビドラマばりの展開で観客を惹きつける一方で、アート・ビジネスの慣習に対して批判的な視点を同時に提供しているところだ。つまり、仮にこの絵が偽物だということがはっきりしても、この映画自体の面白さは損なわれないような作り方になっている。つまり、試合には負けてもいいから勝負には勝つというスタンスを確保している。また、アート業界の人たちと、テリーのようなぎりぎりの生活をしている貧困層との対決みたいな構図にもなっているので、半官びいきの感情でテリーを応援してしまう。これがカンヌやニューヨークの映画祭で上映されたら客の反応は違っていたと思うが、ここは田舎町なので映画が終わったあとは拍手喝采が起こったくらいだ。

テリーは、この5ドルで買った絵は5000万ドルの価値があると信じているので、200万ドルで買いたいというオファーをこともなげに断った。映画が終わっあとのテロップで、900万ドルのオファーが来たが、やはり断ったと出てきた。テリーは今やすっかりポロック専門家になった。だってこんなことをもう15年も続けているのだから。

"Who the $#%& Is Jackson Pollock?"の公式サイトはあるが、内容がない。でも、リンク先に行くと、ポロックみたいな絵が描けるし(楽しい。やみつきになりそう。)、指紋鑑定や絵の具鑑定の詳細を知ることもできる。

この映画に登場するメトロポリタン美術館元館長の反論New York Timesで見つけた(Thomas Hoving。下から二つ目)。なるほど、たしかにこの映画ではポロックのスタイルについては触れていない。

それから、ジャクソン・ポロックがなぜこんなにもてはやされているのかについての一考として、冷戦構造との関係を論じたNew Yorkerの記事を以前訳した。

初出エキサイト 3/24/2007 Sat http://takebay1.exblog.jp/5284871/