Before The Music Dies

今週末はこの町で映画祭をやっている。ぼくも二本見る予定で、今夜はそのうちの一つ、音楽業界の移り変わりを撮ったドキュメンタリー"Before the Music Dies"を見た。タイトルは多分ドン・マクリーンの大ヒット曲「アメリカン・パイ」(1971)のサビの一節"the day the music died"のパクリだと思うので、そういう感じの内容だなと見当を付けて見に行った。上映前に監督が舞台挨拶をした。昔は、デビュー作、第二作あたりまでは売れなくても、レコード会社は辛抱してくれたので、その期間、ミュージシャンは固定客の獲得と自身のスタイルの確立を行う時間が持てたけど、最近はそういう無駄を許してくれなくなったと言っておきながら、「アメリカン・アイドル」(仕組みだけで言えば、モーニング娘。を生み出した「朝ヤン」と似た番組)は素晴らしいと言ってみたり(この番組こそ、タレント養成、プロモーションという必要経費と期間を番組仕立てにすることで省いたビジネスモデルなのに。)、この悲観的なタイトルとは裏腹に、この映画はとても希望的だと言ったが、何が希望かと思えば、インターネットだって。具体的にはダウンロードやマイ・スペースのことらしい。

この映画のおもな素材は、現役シンガーたちへのインタビュー(エリック・クラプトンエルビス・コステロエリカ・バドゥ、ボニー・ライアット、デイブ・マシューなどの有名どころと、無名のミュージシャンたちも多く出てくる)と、音楽ファンへのインタビューである。エリカ・バドゥのコメントが言いたい放題という感じで面白い。たとえば、売れるか売れないかは見た目で決まるので、本当に売れたいと思うなら、豊胸手術はもちろん、お尻にもシリコンを入れなきゃダメね、と言ってみたり。

このドキュメンタリーは現在の音楽業界を批判的に見ている。レコーディング技術の進歩によって、音程を正しくとれなくても編集できることや、1990年代から全国のラジオ局が寡占状態になっていて、どの局も同じ曲を繰り返しオンエアしていること、そして音楽性よりも見た目やファッション性で売れる売れないが決まっていること(ここで使われたのが、ジェシカ・シンプソン、ジュエル、ブリットニー、パリス・ヒルトンの映像)、歌詞の内容が陳腐なことを指摘している。だから、レコードやラジオを見捨ててみんなでマイ・スペースで盛り上がろういうことらしいけど、レコーディング技術の良い面も見なければいけない。フィル・スペクターサウンドビートルズの「サージェント・ペパーズ」が聴けるのはレコーディング技術のおかげだ。それから、ラジオ局の寡占そのものは、各局の選曲の乏しさの直接の説明にはならない。容姿が売れる売れないを決めるのは、テレビが登場して以来そうだし(女の子たちがエルビス・プレスリーに失神したのは何故なのかを考えて見たまえ。)、歌詞の内容が幼稚だというけど、じゃあ昔の歌手はそんなに立派な内容を歌っていたのかと問い返してみる必要がある。ビング・クロスビーはどうだったのか? ブルースの歌詞なんて、言ってしまえばもうある意味めちゃくちゃだ。こういう批判の数々はよくあるパターンなので、うのみにしないことが肝要かと。

ひと言でまとめれば、良質な音楽がビジネスの力によって発掘されにくくなっているということ以外の内容は汲み取れない。明日の映画に期待したい。パンフレットの紹介文を読む限りではかなり面白そうだ。


初出エキサイト 3/23/2007 F http://takebay1.exblog.jp/5279357/