「現代読書法」

一言でいえば、硬派の読書論。ノウハウ的な読書論の対極にあるという意味で、硬派という語を使ったのだが、読書を一つの人生修業と見立てて、自分の読書体験を語っている。著者の田中菊雄は英語学者で、「岩波英和辞典」の編者である。初版は1942年。

読み始めてすぐに気づくのは、引用の割合が尋常でなく多いということだ。古今東西の著述家たちが残した読書についての含蓄ある文句を多数引用している。私は引用のあまりの多さに辟易したが、人によってはそれらの引用を丁寧に読むことが楽しいと感じるかもしれない。もし、読書を愉しみとして、つまりそれ自体を目的として習慣にしているような人なら、この本は多数の引用を含めて類書にはない読み応えを提供すると思う。付録として、読書について書かれた書物の一覧がついているが、これなんかは重宝する人が多いのではないかと思う。

いっぽう、私のように読書を(論文を書くための)手段として日常行っている人は(要するに、読書は嫌いではないが必ずしも楽しいと思って読んでいるわけではない人)、ちょっとくどいと感じる場合が多いかもしれない。したがって、自分の仕事に取り入れてみたいというような見つからなかった。

もっともこれはartとしての読書体験を読者に提供しているのだから、ノウハウとして参考にできるような内容は期待してはいけない。やや異色の読書論であるが、それでもやっぱりカード整理法については記述があるので期待してその項を読んだが、田中自身の経験は書かれずに、ダーウィンエスペルゼンのカード整理法を引用しただけで終わっている。これは大変残念。辞書編集に携わった方なのだから、その経験を書いてほしかった。

「現代読書法」は気楽に読める読書論でない。内容はもちろんだが、日本語自体もやや理解に難しい。そして説教めいている。しかし、書物がこの世に登場して以来、多くの人が読書という行為に相当の情熱と時間を費やしてきた歴史がかいま見れるのは貴重な体験だ。