ロバート・スクラー

アメリカ映画の文化史―映画がつくったアメリカ」の著者であり、アメリカ映画研究者のロバート・スクラー (Robert Sklar)が亡くなった。(NYTの訃報

大学院でアメリカ文化研究の勉強を始めるまえに、「映画が作ったアメリカ」(原題:Movie-Made America)を読んだのは幸運だった。この本を読むまえは、映画は映画でしかなかった。好きか嫌いか、おもしろいかおもしろくないか。映画とはそういうものでしかなかった。

しかしこの本を読んだあとは、映画と歴史を結びつける視点を持つ自分を見つけることができた。もちろん、実際に結びつけるのは困難な作業なので、それができるといっているわけではなく、そういう視点で映画を理解する方法があるということをしることができた、といっているにすぎないのだけど。

読むまえは、「アメリカが作った映画」ではなく「映画が作ったアメリカ」というタイトルが新奇に聞こえたが、読み終えたあとはその理由がわかった。(英語版は「映画が作ったアメリカ」がタイトル。「アメリカ映画の文化史」はサブタイトル。日本語版では逆にしている。)

映画産業が1950年代以降斜陽したことについて、テレビが普及したことを理由にするのではなく、時代の変化に対応できなかったからだと切り捨てる部分を読んだときの衝撃の感覚はいまでも残っている。

「映画が作ったアメリカ」の刊行は1975年。それまでの映画研究と言えば、関連話を寄せ集めてきたような程度のものだった。ところがスクラーは、歴史学的な手法で丹念に資料を読み、この傑作を執筆した。

映画研究はいまでこそ広く認知されているし、このようなスクラーの先見性と新領域開拓への貢献を考えれば、スクラーの業績は、映画研究史の第一ページに書かれるべきものだということが分かる。