「フェアトレードのおかしな真実」コナー・ウッドマン著

タイトルを見たときは、反「フェアトレード」の本だと思ったが、そうではなかった(原題はUnfair Trade: The Shocking Truth Behind Ethical Business)。

この本は、国際間における労働搾取の実例を8つ紹介した本で、そういう話なら昔から存在していた。あの有名な鶴見良行「バナナと日本人―フィリピン農園と食卓のあいだ」村井吉敬「エビと日本人」の21世紀版だと思えばよい。もっと最近の例でいえば、2006年のアメリカ映画「ファストフード・ネイション」のような話が8つ入っている。要するに、大企業が調子のいいことを言って自社製品を売っている裏では、第三世界の人たちが極悪な労働環境で働いているという格差を具体的に描いている。

エビの話から始まり、カカオ、コーヒー、ゴム、ケシ(ヘロインの原料)、それにナイキやアップル製品の話まである。ケシを除けば、どれも私たちに身近なものなので、読んでいて退屈はしない。

著者はわりかし現実的な人だ。この手の本にありがちな、左翼思想に凝り固まり、大企業憎しが最初から決まっているような本とは違う。著者が言っているのは、第三世界第一次産業が産業として成り立つためには、開発援助を増やすことでも、多国籍企業の活動を制限することでもなく、生産性と商品価値を上げる以外に近道はないということだ。

もちろん、開発援助も先進国の企業活動も、排除する必要はない。要は、使い方しだいだ。本書には開発援助の話はあまり出てこないが、企業活動に関しては詳しく述べられている。著者はいわゆるコンシューマリズムを信じる人で、大企業は自主的に倫理的な行動をとる動機に乏しいので、そこは消費者が正しい消費行動をとることで、企業に圧力をかける必要があるという立場。

企業が倫理観や正義感、あるいは環境保護を言い出すことは、たしかに時代の流れであるし、方向性としては間違っていないとは思う。企業のPRによって、消費者の意識を高める効果はあるとおもう。と同時に、胡散臭いと感じるのも事実。5月か6月ごろ、心斎橋のパタゴニアのショップに行って帽子を買ったとき、店員が「環境保護のために商品を袋に入れずに、そのままで渡してもよいか」と聞てきいた。そう言われれば、反対する理由はないので、私は帽子をそのまま受け取って帰った。後日、パタゴニアのウェブサイトでシャツを何枚か買ったのだが、それ以降、季節ごとのカタログが自宅に送られてくる。もう、2回か3回届いた。ショップで袋1枚を節約するという倫理観を押し出す一方で、ウェブサイト購入者には、紙とインクを使った4色刷のカタログを頻繁に送りつけるという節操のなさ、と言えば言い過ぎか?

とにかく、読んでおいて損はない本。人によっては、目から鱗かも知れない。エコロジーフェアトレードエシカル(ethical)、そういうカタカナ言葉に酔いしれて、現実を直視できなくなるのは良くないので、現実感覚を保つためには有益な本だと思う。