Heart of Gold (Neil Young)

3時頃には目的の町に着き、ぼくにしては珍しく迷うことなく予約したモーテルに入った。一休みしてから辺りを走り回り地理感覚をつかんだ。とりあえず確認しておきたいのは、面会の約束をしている人のオフィスの位置、東西と南北のメインストリートを一本ずつ、スーパーマーケット、モールだ。走っている途中ですし屋を二軒見つけた。うち1軒の方の名前が「友」なのだが、その読み方をDomoと間違えていたのでその程度の店だろうと思い、もう一軒の店に行った。でもその店にしても味ははじめから期待してなかったが、値段が高く店員のひどい接客にも腹が立ったので、食べ終わるなりチップを1ドルとわずかの小銭だけ置いて店を出た。

寿司が出てくるのを待っている時間で町のイベント関連の情報を漁っていたら、ニール・ヤングのコンサート映画「ハート・オブ・ゴールド」が今夜の7時半から上映されるのを見つけた。そうだった、これは見に行きたいと思っていながら結局見損ねた映画だった。2005年8月にナッシュヴィルのRyman Auditoriumでのコンサートを収録した作品だ。住所をたどって上映される場所に行くと、そこは映画館ではなく薄汚いバーで店の奥に小さなライブ用ステージがあり壁に映写用の幕をつり下げていた。傾いたテーブルに腰掛けてサラダとコーヒーを注文して映画の始まるのを待った。「ハート・オブ・ゴールド」は冒頭にヤングはじめバンドメンバーのインタヴューがあるだけで、あとは最後までずっとコンサートの映像だ。エミールー・ハリスも出演している。ヤングはハンク・ウィリアムスを真似たようなカウボーイハットにスーツを着て、曲間のエムシーでなんどもHank Williamsのことを話した。最後の方の演奏では、ヤングがバンジョーを弾いたり、ギター7本による圧巻の演奏がある。メンバーの一人が箒で床を掃く音をリズムとして使った曲もある。ベーシストがぼくの知り合いのベーシストに似ていて、もうしばらく会ってないのだけれど彼はナッシュビルの住人だから、参加要請があったのかなと思ってしまった。でも彼の音楽的嗜好はグランジ系でカントリーは好きじゃないはずなんだけどなと思いながら、何度か目に映ったベーシストを見てまったくの別人だということが分かった。

先週「アメリカン・ルーツ・ミュージック」のことをここに書いた時、ナッシュヴィルのことに触れたばかりだった。そして今日のこのヤングのライマンでのコンサート映画。ナッシュヴィルにはこれまで2回行ったことがあるし、ライマン大講堂に入ったこともある。昼間でその夜は誰かのコンサートがあり、ジャクソン・ブラウンのCDを流してサウンドボードのチェックをしていた。

モーテルに戻り、19インチの映りの悪いテレビでスポーツニュースを見てたら、ワールドカップ関連の話題として、ヨーロッパのサッカーファンの人種差別行為を特集していた。見た映像から判断する限りでは、観客が拡声器を持ってアフリカ出身の選手に対して人種差別に関する発言を内容を叫び、それに周りの客が大合唱で応えていた。なにもその選手がへぼミスをしたからとかではなさそうだった。普通にプレーしていてもそういう差別を受けるみたいだ。スペインリーグのアフリカ国籍のゴールキーパーは試合中にも関わらず、自分に対する差別発言の大合唱に耐えきれなくて試合を抛棄してベンチに帰ってしまった。こういうあからさまな差別はアメリカでは見られないだろう。多分。そういう意味ではアメリカの努力は素晴らしい。アメリカ人は少なくとも公共の場ではそういうことを絶対言ってはいけないということを知っていてそれを守っている。他人の心の中までは覗けないし、ぼくの経験の範囲内では、私は黒人大嫌いとぼくにこっそり言った白人アメリカ人は何人かいるけど、そういうことを言う人でも公の場所ではけっしてそういうことは言わない。本音と建て前の切り替えができている。それは手放しで褒められることではないけれど、少なくともスタジアムで差別発言を連呼して盛り上がる観客よりはあきらかに民主的な態度だ。
"Things have changed, but the spirit is here."
(Neil Young, from the movie HEART OF GOLD)