ミネアポリス<学会編>

今週の木曜日から日曜までミネソタ州ミネアポリスで学会があった。ミネアポリスには過去に何回か来たことがあるので、ダウンタウンの地理感には困らないだけ気が楽だった。田舎に住んでいる者がたまに都会に行くと、うきうきわくわくする。排気ガスの臭いがなんとも美味しい。いろいろなデザインの高層ビルを見ていると楽しい。



木曜日の朝ミネアポリス空港に着いて、Light Rail という二両編成のミニ電車に乗って市街に行った(これは最近できた乗り物だと思う。車両も新しいし、4年前に来た時はなかったような気がする)。この電車は2ドルの統一料金で乗れて、切符発券機はあるものの、乗る時も降りる時も改札がない。つまり、やろうと思えばただ乗りが可能なのだ。これはなかなか興味ぶかいケースだ。ただ乗りする人は何パーセントかいることを考慮しても、駅ごとに改札の機械や人員を配置しなくていいので、運営コストが低くてすむ。こういう考え方もあるのかと感心した。見方を変えれば人々の良心を前提にしているわけで、こういうビジネスモデルは、たとえばウォルマートなどの大型店舗でどんなものでもレシートさえ持っていけば返金してくれるシステムと共通する。これだって悪用しようと思えばできるけど(ぼくも一度自分で壊してしまった物を知らんぷりして返したことがある)、客の良心を前提にして、利便性を提供している。話はLight Railに戻るが、一度切符を買うと2時間半以内なら、Light Rail を含めた全ての交通機関に使える。これも大変便利だ。荷物を抱えていると、そのつど切符を買うだけでも面倒なものだ。だから、ちょっと用事で出かけてすぐ帰って来るときは、一度だけ切符を買えばいい。


学会の発表のスタイルというのは、テーマの似通った発表者を3人か4人集めて、それに司会者とコメンテイターを付ける。このかたまりをセッションと呼んでいる。司会者とコメンテイターが別々の人になることもあれば同一人物であることもある。今回は後者だった。ぼくの発表するセッションの司会を引き受けてくれたのは地元ミネソタ大学の教授で、その人の書いた本はぼくが大学院で初めて読んだ本だったので、会えることを楽しみにしていた。司会をする時の話し方を聞いていると、どこかで聞いたような話し方だなと思ったら、「プレーリー・ホーム・コンパニオン」というラジオ番組のギャリソン・キーラーとそっくりだった。これがミネソタ英語なんだろうか。発表自体はどうだったのかというと、部屋がずいぶん豪華な感じで、全体の照明は暗めで、弱いスポットが発表者に落ちるように当たり、見た感じは最高の雰囲気だった。自分の声もスピーカーを通じてしっかり聞こえたし(これができないと落ち着かず、不安になる)、話しているときは気持ちよかった。


学会には、発表しに行くだけでなく、人と会うという目的もある。話のレベルもまちまちで、通り一遍の挨拶ですむ場合もあれば、雑談以上に発展しない(あるいは、発展させる必要のない)場合もあるし、真剣勝負の交渉事を挑む場合もある。あらかじめ会う予定をしていた人もいるが、その場でいきなり話を始めるということの方が多いので、どのレベルで話をするべき人なのかを瞬時に判断して、有益な方向に持っていく必要がある。それから、話をする中で共通の知り合いを見つけることはよくあることだが、今回ひとつ驚いた発見があった。本などで名前を知っていたある二人の著名な研究者が実は夫婦だったということが分かったのだ。結婚しても女性は姓を変えない場合が多いので、こういうことは言われなければ分からない。


ダウンタウンの近くに住んでいる友人がいるのだが、あいにく旅行中で会えなかったので、ホテル近くのお薦めレストランのリストをもらった。トップは、Hell's Kitchenというレストランだった。朝食と昼食のみ提供する店で、土曜日の朝8時に行ったら45分待ちだと言われて諦めた。待っている人たちを見ると、観光客っぽい人ばかりだった。休日なので空いていると見込んでいたのに、むしろ平日の方が空いているのかもしれない。二番目はSutaccatoというイタリアンだった。この店は学会がらみの会合でランチを予約していたので、おいしいパスタをいただくことができた。ぼくの住んでる町で一番のイタリアンよりはるかにおいしかった。それから友人のリストにはなかったが、Masaというメキシカンもよかった。インテリアがすいぶんあかぬけた感じで、料理のボリュームはないが美味しかった。


ミネアポリス滞在中は寒くて雨が降っていたのでこたえた。それに、普段はかない革靴やスーツで歩くので肉体的に疲れた。ランニングで鍛えてはいるが、重い鞄を持って街中を歩くための筋力はまた別だ。さらに今回は、節約するため学会開催のホテルではない別の安いホテルに泊まったので、学会のホテルまで歩かなければ行かなかった。これも疲れた一因になった。というわけで、木金土で学会としての予定を終えて、日曜日は観光に出かける。よって観光編は次回。今日はここまで。