Neil Young "Rust Never Sleeps"

さして気に留めていなかったアルバムだが、これはすごいアルバムだと認識を新たにした。ニール・ヤング&クレイジーホース名義の1979年のライブアルバムだが、一曲目と最後の曲で客の歓声が入っているだけで、ライブアルバムぽくない。でもそれはさしたる問題ではない。

一曲目"My My, Hey Hey (Out of the Blue)"は、ギター一本のイントロから始まり、タイトルのフレーズを唄ったあと、rock and roll is here to stayとつづく。 これだけだと、まだこのアルバムの主題をつかむことはできない。ヤングは間奏でハーモニカを吹いたあと、This is the story of Johnny Rottenと唄う。これで主題が見えた。この歌ひいてはこのアルバムは、1977年にデビューして、79年に解散したイギリスのパンクバンド、セックス・ピストルズへの讃歌だ。収録時間は、ピストルズのデビューアルバム "Never Mind the Bollocks" と同じ38分なのは偶然ではない。

2曲目、3曲目、4曲目は静謐な感じの歌が続く。4曲目"Pocahontas"は MTV Unplugged に収録されているヴァージョンよりも個人的には好きだ。5曲目"Sail Away"でこれまでのギター、ハーモニカの構成にドラムが加わる。元々のLPフォーマットではここでA面が終わる。B面はエレキギター、ベースも入って、ロックサウンドに変わる。"Sedan Delivery" はパンクバンドっぽい演奏だ。最後の"Hey Hey, My My (Into the Black)"は、一曲目の"My My, Hey Hey (Out of the Blue)"のリプライズで、ロックサウンドにアレンジしている。rock and roll can never dieと唄って、男声バックコーラスが Jonny Rotten, Jonny Rotten とハモる。同じことを他の人がやるとギャグになりかねないが、ニール・ヤングがやると圧倒的な説得力を持つ。

Rust Never Sleepsはピストルズへのオマージュであるが、アルバムをアコースティックとエレクトリックの二部構成にしたことは、もしかするとボブ・ディランのことも意識したのかも知れない。10年以上前の60年代半ば、ディランはアコースティック・スタイルから、ロック・サウンドに移行した。彼の脱フォークを批判する勢力もあったので、ディランはマネージャーの勧めもあり、コンサートではアコースティックの部とエレクトリックの部に二部構成にした。

ディランの65年のアルバム "Bring It All Back Home" もA面はロックで、B面はアコースティックになっている。A面の最後 "Bob Dylan's #115 Dream"で、ディランがイントロをアコースティック・ギター一本で弾きながら出だしの歌詞を唄い出した途端、バックバンドの人が待ったをかけて、大笑いしながらやり直そうと言う。テイク2、の声とともに演奏はやり直し。するとテイク2ではディランのアコースティックにドラム、ベース、エレキギターが入ったバンド演奏で最後までいく。このバックの大笑いは意味深だが、レコードをB面にひっくり返すと、フォークのディランに戻り、"Mr. Tambourine Man,""Gates of Eden," It's all Right Ma, I'm Only Bleeding," "It's All Over Now, Baby Blue"とおなじみの名曲が4曲続く。

ディランのエレクトリックはいつまでも同じことをしていたら錆びついてしまうというメッセージだったとしたら、ヤングのこのアルバムは、いったん錆び出したら止まらないというメッセージだ。ピストルズのNever Mind the Bollocksは、他のすべてのロック音楽を錆びたものにみえさせた。計画的ではなかったと思うが、ピストルズはこの一枚のアルバムで解散した。錆びる前に解散してしまった。The King is gone, but it is not forgotten. とヤングはアルバム最後の"Hey Hey, My My (Into the Black)"で唄う。70年代後半のヤングのアルバムを振り返ると、"Tonight's the Night," "Zuma," "American Star 'n' Bars," "Comes a Time"と立て続けにアルバムを発表したが、ロック、フォークロック、フォーク、カントリーと特定のスタイルに依存することはなかった。天使は疲れたら眠るが、錆は腐食を止めることをしない。一つのスタイルに依存しないこと、これがヤングにとって、錆びつかないために自らに課した使命である。この点においてヤングは、すでに書いたようなディランが60年代半にやったことと、70年代終わりにピストルズのやったこととを同時解釈して、Rust Never Sleepsを作った。ヤングにしては歌詞のニュアンスが前向きで、自分をうまくコントロールできている。HelplessやHeart of Goldのヤングもいいが、Rust Never Sleepsのヤングは彼なりの爽やかさ潔さが出ていて、これまた素晴らしい。