Good Night, and Good Luck

アメリカ1950年代前半に吹き荒れたマッカーシー旋風に敢然と立ち向かったテレビキャスター、エドワード・マロー Edward R. Murrowを主人公にした映画Good Night, and Good Luckを見た。タイトルは、マローが番組(See it Now)の終わりに必ず言う決まり文句からとられた。毎週火曜日の夜10時半からの30分番組でキャスターのマローは、社会的題材をテーマに辛口で辛辣な意見を述べるので周りから圧力を受けるが屈せず、正義を信じて番組を作った。

この映画はマローの生涯を描いたのではなく、マッカーシズム全体を描いたのでもなく、See It Nowで放映した反マッカーシーのエピソードだけにに焦点を当てている。50年代前半のいわゆるマッカーシズムは、マッカーシーという一上院議員が作りあげた政治的状況ではなく、当時の反ソ反共の政治的文化をマッカーシーが集約する形で、彼の目から見てうさんくさい人物に片っ端から共産主義者のレッテルを貼り付けた。See It Nowは、それがまったく根拠のないものだということを暴いた。

映画では本物のマッカーシーアイゼンハワー大統領、非米活動委員会(HUAC)の公聴会の映像が使われた。興味深かったのはスタジオの様子。意外と狭い。それに生放送だったんだね。びっくりしたのは、当時CBSは社員同士の結婚を認めなかったといういうことだ。でもなぜなんだろう。See It Nowがマッカーシー特集を組んだ3週間後の放送で、なんとマッカーシー本人がスタジオにやってきて一回分の放送を彼の反論に充てたなんて知らなかった。

唯一不満だったのは、場面の合間に何度か入ったジャズシンガーの映像だ。登場人物とは何の絡みもない歌手が唄うのを見るたびに緊張感がほどけてしまった。ああいう間延びするシーンはカットして、一気に畳みかけたほうがよかったのに。

この映画では、番組スタッフが四六時中タバコをプカプカしている。こういうシーンは現在にストーリーを設定した映画では見ることができない。思うに、アメリカでは階級の隔てなく消費するものといえばタバコが唯一最後の商品ではなかったか。それがいまではタバコは労働者階級の楽しむものというふうに変わった。日本では社長も工場労働者も一緒にタバコをすっても違和感はないし、ビールを一緒に飲んでも違和感はない。アメリカではビールは労働者の飲み物だ。金持ちがビールを飲む時はかならず輸入ビールを飲む。 See It Now のような番組は現在では作れないだろうなという感想とともに、タバコの社会学的意味も変わったなと感じた今夜の映画だった。


初出エキサイト 4/9/2006 Sun http://takebay1.exblog.jp/3461789/