アラン・ローマックス選集

先日、アラン・ロマックスの伝記のことを書いた。それが手まねいてくれたのか、、図書館で別の本を探していると、ロマックスの評論集の翻訳をぐうぜん見つけた。「アラン・ローマックス選集 アメリカン・ルーツ・ミュージックの探求 1934ー1997」(ロナルド・コーエン編、柿沼敏江訳、みすず書房)という本で、CD付きで6000円。まさか、ロマックスが日本語に翻訳されているとは、うれしい驚きだった。
編者のロナルド・コーエンは、フォーク音楽に関する著作を多数もつ研究者だ。一度、学会でお顔を拝見したことがある。インディアナ大学の教授だったと記憶している。それから、この訳書はローマックスと表記している。なるほど、LOmaxが正しい発音で、この表記の方がいいので、私もこれにしたがう。
原本は2003年にニューヨークのRoutledgeから発売されたAlan Lomax: Selected Wrtings, 1934-1997である。ローマックスが亡くなったのが2002年だったから、原本はその翌年に発売されたことになる。
34の文章が時代順に5部に分けられて収録されている。ローマックスは単行本も何冊も書いているが、ローマックスの業績を概要を知りたい人は、この選集だけを読めば、とりあえずはじゅうぶんではないかとおもう。が同時に危惧することもある。ローマックスの関心は多岐にわたったので、この34のエッセイをよむと、扱う範囲が広すぎて理解が追いつかないかもしれない。第四部のカントメトリックスに関するエッセイは特に難しいだろう。そういう人には、ローマックスのLand Where the Blues Began (1993)が、ブルースの歴史について書いた本で、評価も高くおすすめなのだが、翻訳がない。
本評論集に付属のCDは、原書についているCDと同じものを日本語版にもつけたものだが、正直言って物足りない。ローマックスの多種多様な音楽収集を収斂した内容にはほど遠いからだ。スペイン、イタリア、イングランド西インド諸島、テキサスでの録音、ラジオ番組からの抜粋など11トラックしかない。ブルースも、ゴスペルも、ヒルビリーも、カウボーイ・ソングも聴けない。音源を提供しているラウンダーは、フォークの世界では有名なレーベルなので、いくらでもローマックスの音源は持っていると思うが、予算の関係か権利の問題かでやむなく、このような形になってしまったのだと想像する。
本だけ読んだら、せっかくだから、音楽も聞きたい。たくさん発売されているローマックスのレコードから一枚選ぶとすれば、Southern Journey Samplerだろう。全38トラックで、アメリカ国内、国外の録音がまんべんなく収録されている。イングランドスコットランドアイリッシュ、カリビアン、イタリア、スペイン、その他の国でローマックスが収録したフォークソングが聞ける。日本民謡江差追分」も含まれている。国内では、デルタ・ブルース、教会歌、漁師の労働歌など種類に飛んだ選曲である。