Merriam-Webster’s Guide to Punctuation and Style (Second Edition)

英文ライティングで、パンクチュエーション(コロン、セミコロン、カンマなどの記号文字)を正確に使うことは、マスターするべきスキルの一つだが、初心者レベルで指導されることはあまりないと思う。どちらかと言えば、上級者になって取り組めばいいような類の内容だと思われている節がある。

しかし、記号類を正しく使うスキルは、初心者の段階からやったほうがいいと私は思っている。こう考えるのは、個人的な経験に基づいている。アメリカ留学最初の夏休みに履修した留学生用のライティング集中コースで、セミコロン、コロンの使い分け、引用記号、カンマの打ち方などを徹底的に教え込まれた。ろくに英語そのものが書けないのに、なぜこのような重箱の隅を突っつく事に時間を割くんだろうと、そのときは教師の意図が理解できなかった。が、そのあとの論文執筆などで、ここで覚えたことが思わず役に立った。我流の間違った使い方が身に付いてしまう前に、正規用法を叩き込まれたおかげで、パンクチュエーションに関して正確に使うことができた。おかげで、授業で課されるペーパーや、修士論文では大助かりだった。ライティング・センターの先生(学生のペーパーを読んで直してくれるチューターが常駐している場所。留学生だけでなく、アメリカ人学生も利用する)には、英語は直されたが、パンクチュエーションを直された記憶はない。

私はメリアム・ウェブスター辞書を収集しているので、久々にMerriam-Webster's Guide to Punctuation and Styleという辞書をコレクションに追加した。値段は500円未満だったとおもうが、英文ライティングで必要な記号文字、その他の「細々した約束事」のルールを簡潔に整理した辞書、というよりリファレンスだ。

本文が290ページ。8つの章に分かれている。順に、“1 Punctuation,” “2 Capitals and Italics,” 3 “Plurals, Possessives, and Compounds,” “4 Abbreviations,” “5 Numbers,” “6 Quotations,” “7 Notes and Bibliographies,” “8 Copyediting and Proofreading” そして付録のページが続く。

ビジネス・ライティングなら、第5章までで十分だろう。約160ページ分であるが、書かれていること全部を覚える必要はない。ひととおり読んで、どこに注意すればいいのかポイントが頭に入ればとりあえず十分。あとは実際に書くときに参照すればよいのだから。

時間がない人は第1章だけでも絶対読むべき。第1章では、カンマ、ハイフン、アポストロフィー、コロンなどの記号の使い方を説明している。なかでも一番大切なのはカンマだと思う。パンクチュエーションの中で、これを一番よく使うから。したがって、誤用も一番おかしやすい。日本人にかぎらず外国人の書いた英語を読んでいると、余計なところにカンマを打つ例がとても多い。よって、学習の視点は、どこにカンマを打つかよりは、どこにカンマを打ってはいけないかという意識で勉強するのがいいと思う。カンマの正しい使い方をマスターするだけでも、英文ライティングの質はかなり向上する。余計なカンマが挟まった英語を読むのは、読む方からすればいらいらするものだ。とにかく第1章(約50ページ)が一番大事。そのなかでもカンマが最重要である。

研究者を目指す人なら、第7章まで一応読む必要があると思う。ただし第7章の脚注や引用文献の表記方法は、自分の分野のスタイル(APA、MLA、Chicagoなど)のマニュアルを使った方がいいと思われる。

第8章は、ビジネス、研究どちらも、読まなくても問題なかろう。編集者の仕事にかかわる内容なので、ほとんどの読者には直接関係ないと思われる。

学生は春休み、社会人は仕事の前か後の時間を確保して一週間くらいで一気にやればいい。全部覚えなくても、気をつけるべきポイントさえつかめば、あとは実際書くときはこの辞書を参照すればよい。しつこいが、とにかくカンマの使い方(どこにカンマを打ってはいけないかという視点で)をマスターすることから始めるとよい。カンマがスタート地点である。

ほとんどの英語学習者は、英文そのものに気をとられて、こういう記号類の扱いには無頓着になってしまう。意味が通じればいいと開き直っている人にはこの辞書は必要ないが、信頼される英文を書こうと思うなら、パンクチュエーションやスタイルを正確に使うことは必須である。

それから、この本はアメリカ英語のルールを記している。イギリス英語では、一部ルールが違うので注意されたし。