マレーシア関連の本を読書中

国際会議のためクアラルンプールに行くので、マレーシア関係の本を何冊か読んでいる。ガイドブックでは、自分としては定番の「ロンリープラネット」を購入。もちろん「地球の歩き方」も役に立つが、これは立ち読みで済ませた。

ロンリープラネットでは、最大都市クアラルンプールとともに、ムラカ(Melaka いわゆるマラッカ)とペナン(Penang)が紹介されている。歴史的に面白いのはクアラルンプールよりもマラカやペナンらしい。ペナンは遠すぎるが、マラカなら日帰りで行けないこともないので、日程を調整して行くかもしれない。

紀行文では、英国人が植民地時代の体験を書いているはずだが、探すのが面倒だし、手早く日本語で読めるものとして思いついたのが、金子光晴沢木耕太郎金子光晴は「マレー蘭印紀行」「西ひがし」で、1930年代の東南アジアを旅行した経験を残している。私は中央公論社の全集から探したが、単行本や文庫本でも入手可能。それから、文庫の棚を探しているときにたまたま見つけたのが「絶望の精神史」。日本人論の走りみたいな本だが、そういう部分は置いておいても、大正、昭和の風潮や風習の話は面白い。

沢木耕太郎は、有名な「深夜特急」シリーズの第2巻が東南アジア。沢木は1980年代・1990年代のバックパッカーたちにとってカリスマ的存在だということは、当時は知らなかった。「当時」というのは、沢木には遠く及ばないが、自分もその時期あっちこっちほっつき歩いたからだ。大沢たかお主演でテレビドラマ化されたのは見たのを覚えているが、本を読むのはたぶん初めて。読み始めたばかりで、最初の町バンコクを出て、シンガポールにむかう列車にのって最初の宿泊地にきたところまでしか読んでないが(全体の約半分)、個人的には評価はもうひとつ。両替に手間取った話、安宿で値切った話、その安宿で娼婦を追い払うのに苦労した話、現地の価格を日本円に換算して格安感を確認する話・・・、そういったことは、バックパッカーを経験した人ならおなじみだ。もちろん、そういう経験をしたことのない人には新鮮なのだろう。似たようなことをした私としては、既視感こそあれ、情報としては新鮮さがない。

金子と沢木を比較すると面白い。金子は1930年代で、沢木は1980年代(あるいは1970年代)。金子は、今の時代なら決して口に出せないような差別的表現で現地の人たちを描写している。帝国主義的人種観であることは確かだが、金子の性分として、けっして日本人としての自分や日本という国に優越感を抱いていたわけでもない。とはいっても、金子のマレー半島での旅は、現地に進出している日本企業や日本人を頼りながらのものだった。ようするに、帝国主義日本の恩恵を受けながらの旅だった。一方、沢木には、先進国日本で生まれ育った自分が、「貧乏」な香港やバンコクを、「貧乏旅行」する自分という構図から来る罪悪感が見て取れる。

それから、マレーシアの歴史を知るために、大学図書館で見つけたのが、ザイナル=アビディン=ビン=アブドゥル=ワーヒド「マレーシアの歴史」(山川出版)。これが書棚に並んでいた唯一のマレーシア本で、近隣のインドネシアやタイに比べるとあまり研究が進んでいないのかもしれない。1983年発行で、30年前というと歴史書としてはかなり古い部類に入る。論文を書くわけではないので古くても差し支えはないが、本は1957年の独立で終わっているのは残念。現代史は、別の文献でフォローする必要がある。